
よく言われる「法人所有にすれば相続税が下がる」という言葉の裏には、多くの投資家が見落としている巨大な維持コストと税務リスクが隠れています。
国内不動産の特例が使えない海外物件において、法人という「箱」は万能な盾ではありません。
本記事では、流行のスキームを妄信せず、10年後、20年後に確実に資産を次世代へ繋ぐための「冷徹な判断基準」を提示します。
Contents
法人で海外不動産を所有してメリットが得られる人・チェックリスト
現地で法人を設立し海外不動産を所有して、相続上メリットが得られるのは以下のような極めて限定的な場合です。
- 資産が数億円単位: 年間100万円単位の法人維持コストを払っても、相続税の圧縮額(37%控除分)がそれを上回る規模
- 通貨分散が至上命題: 円という通貨や日本の将来を信じておらず、外貨資産として次世代に残したい
- 国内不動産は十分ある:これ以上の国内不動産を購入してもリスク分散にならない富裕層
以下、「法人運営で相続上メリットがある人」の具体的チェックリストとなっています。
- [ ] 物件価格: 管理コストを回収できる規模にする予定か(目安:1億円以上)。
- [ ] 出口戦略: 最終的に「物件」を売るのか、「会社ごと」売るのか。
- [ ] 法人の箱である程度ブロックできる国(アメリカなど)で不動産を購入予定
この限定的な属性の方だけが法人で海外不動産を所有して相続対策にメリットが出てくる人ですので、法人維持のための費用でコスパが悪いと感じられる人のほうが多いことを前提に以下をご参考ください。
なぜ相続対策で海外不動産を「法人所有」にするのか?(3つの合理的理由)
所得の圧縮: 個人所得に合算せず、役員報酬や諸経費で利益を相殺。
2020年の税制改正により、個人では海外中古物件による減価償却(節税)ができなくなっていますが、法人であれば引き続き有効です。※個人所得の場合、海外不動産の所得は不動産所得として他の所得(給与や事業所得)と合算される累進課税の対象です。
海外不動産を法人名義とし、現地の管理費のみならず物件視察の旅費・法人維持のための諸費用を事業経費として計上できるので節税という意味では効果を発揮しやすくなります。
そして法人から本人や家族に役員報酬を支払うことで、以下のようなメリットも生まれます。
- 贈与税を所得税に変換:個人間のお金の授受は最大55%の贈与税の対象です。法人の役員報酬としてのお金の異動は所得税と住民税です。
- 親の相続財産を合法的に減らせる:役員報酬として子供に支払うことで法人の利益(=株価)を抑えつつ、相続を待たずに子供の世代へ移転できる
- 相続対策で最も困ることは一括納付の相続税:子供の口座に「将来の相続税を払うための軍資金」をあらかじめストックさせておく
ただし全く仕事をしていない子供に一般的な相場からかけ離れたの多額の報酬を支払えば、税務署から否認リスクが高まり経費として認められないこともありますのでご注意ください。
株式による承継: 不動産現物ではなく「会社の株」として贈与・相続。
親から子供へ不動産を継承させるとき、相続対象は不動産そのもの。子供が2人以上いれば不動産を複数人で分割するのが困難です。
一方で法人所有にすれば「相続対象を一株単位の法人株式」として分割可能なため、争族リスクを抑制することも可能です。
しかも日本の法律に基づいた遺産分割や贈与の手続き(株式譲渡)で完結できます。
そして日本の相続税評価においては非上場株式の価値評価では「法人が保有する不動産に含み益がある場合、その含み益に対して法人税相当額(約37%)を差し引いて評価すること」が認められています。
個人で不動産を直接持つよりも、法人を通じて「株式」として持つ方が、相続税の課税対象額を理論上抑えられる仕組みです。
所得の圧縮効果がある一方で、法人の維持コスト(現地の会計監査、納税申告、住所維持費)は毎年発生します。物件の利回りや評価益が、これらのランニングコストを上回る「損益分岐点」を見極めることが、単なる迎合ではない現実的な判断基準となるでしょう。
遺産分割の円滑化: 共有持分トラブルを避け、議決権で管理を一本化
海外不動産を子供3人で相続して個人共有名義にした場合、将来「売りたい」「貸したい」「大規模修繕したい」と思っても、3人全員の同意が必要になるのが一般的です。しかし1人でも反対すれば、物件は身動きが取れなくなります。
共有者の1人が亡くなればその持分がさらに孫世代に細分化され、もはや誰の承諾が必要なのか把握すら困難になります。
法人所有にすれば、不動産をバラバラにするのではなく会社の議決権(株式)」支配構造を構成できます。
例えば長男に51%の株式を持たせて代表取締役(意思決定者)に就任させたならば、不動産の売却や運用方針は長男の一存でスピーディーに決めることができます。次男や長女には残りの株式(例えば各24.5%ずつ)を持たせることで、賃料収入などの「経済的な果実」は配当として平等に分け合うことができます。
長男が家を継ぐ代わりに、他の兄弟に数千万円払うといった多額の現金(代償金)を用意する必要がなく、株式の持ち分比率を調整するだけで遺産分割のバランスが取れるようになります。
これは相続や継承について回る問題なのですが、特定の承継者に権限を集中させる場合、他の相続人が「配当が適正にもらえていない」と不満を抱けば、法人そのものの解散を求める訴訟に発展することもあります。これはその時になってみないとわかりません。
議決権を誰に持たせ、配当(利益還元)をどう明文化しておくか。この「出口のルール作り」を法人の定款や株主間契約で事前に固めておくことが、円滑な承継の絶対条件です。
相続時の評価メリット(税務上の事実)
法人が持つ不動産の含み益に対し、法人税額相当額を控除して評価できる
日本の税務上、非上場株式の価値を「純資産価額方式」で計算する場合は法人が所有する資産(不動産など)の時価から、帳簿上の価額を引いた「含み益」に対して一律37%の法人税額相当額を差し引くことが認められています。
もしその法人が今すぐ解散して不動産を売却した場合会社には法人税が課せられます。株主の手元に残るのはその税金を払った後の残額です。そのため相続時の評価でも「将来払うべき税金分」をあらかじめマイナスして評価して良いという理屈です。
具体的な計算イメージとして法人が持つ海外不動産の状況が以下のとおりだとします。
- 現在の時価: 2億円
- 帳簿上の価額: 1億円
- 含み益: 1億円
この場合、相続税評価額の計算では以下のとおりです。
- 1億円(含み益) × 37% = 3,700万円(控除額)
- 2億円(時価) - 3,700万円 = 1億6,300万円
結果として個人で2億円の不動産を直接持っているよりも、評価額を約18%(3,700万円分)圧縮した状態で相続できることになります。
以下を前提にして「海外不動産の法人活用で相続対策をするのは有益だ」と思えるならばよいでしょうし、思えないならば相続対策として活用するのは回避したほうがいいでしょう。
| 国内不動産(個人) | 海外不動産(法人) | |
| 相続税評価減 | 有利 | 有利とは言えない |
| 物件の成長性 | 低い: 日本の人口減とコストプッシュ型インフレ | 高い アメリカ:人口増とインフレ イギリス:歴史的希少性と供給の希少性 |
| 通貨リスク | 日本円一択 | 外貨保有による資産分散 |
| 出口戦略 | 日本の市場のみ | グローバルな転用や運用 |
海外不動産の相続において、法人化は「国内不動産ほど有利ではないときの代替策」として有効です。しかし「物件価格が高額であり、かつ長期保有を前提とする場合」の上級者向けスキームです。
特に継承相続対策において、お子さんが成人されて数十年間(少なくても30年超)その資産を保有し続けるという視点で見れば、円安で購買力低下がいかに資産価値の棄損になるかを実感する方はいらっしゃることと思います。
日本国内の特例が使えない海外不動産において、法人評価は有力な代替案
自宅や事業用地のような国内不動産であれば、一定の条件を満たせば相続税評価額を大幅に圧縮できます。
しかし海外不動産は場所がどこであれ一律に時価の鑑定評価がベースとなります。そして以下のような歴然とした差が出るのです。
- 個人の場合: 評価減の手段がほぼなく、現地の価格上昇がそのまま相続税の重荷に
- 法人の場合: 不動産を「非上場株式」に変えることで、別の評価ロジック(純資産価額方式)に持ち込める
先述の「法人税額相当額の控除(37%)」は、海外不動産の評価減特例として機能します。何もしなければ時価100%で課税される海外不動産に対し、法人格を挟むだけで評価を約18%〜20%(含み益の構成比による)自動的に削れるのは、実務上極めて大きな差となります。
法人の規模(従業員数や売上高)が一定以上であれば、純資産価額だけでなく上場企業の株価と連動させる「類似業種比準方式」を組み合わせて評価するのもよいでしょう。
ただし法人を維持するための後述するようなランニングコスト(現地会計士・税理士費用など)が数十年単位で積み重なると、相続税の節税額を食いつぶす「逆ざや」になることがあります。
日本の法人評価額を下げたとしても、アメリカなどの税務当局によるルックスルー対策もすべきです。
見落とし厳禁の「負の側面」
維持コストの壁: 現地の法人維持費用(会計監査・代理人費用)が節税額を上回るリスク
節税といういかにも魅力的な言葉の裏にある、最も現実的でハードルが法人維持費というコストです。
海外不動産を法人で持つ場合、日本の感覚では想像しにくい「見えないコスト」が毎年発生します。相続税を1,000万円減らしたとしても、20年間法人を維持していくコストを1,500万円払っていたという逆ザヤが起こる可能性もあります。
相続がいつのタイミングで訪れるかわかりませんので、長生きするほどこの維持コストが積み重なるのは申し上げるまでもありません。この維持コストのコスパの悪さを感じるようであれば法人を設立して海外不動産を運用していくまでもありませんが、「実際にそうした資産家は多くいらっしゃる」という点で歴然としたメリットがあるのです。
事務所や従業員がいない実体のない法人は、日本の所得と合算課税される可能性
多くの海外不動産投資家が「海外に法人を作れば、日本の高い税金から逃れられる」と誤解していますが、日本の税制にはそれを許さないタックスヘイブン対策税制(CFC税制)という強力な網が張られています。
その税制の概要は「海外法人の利益を、日本の居住者の所得とみなして、日本の高い税率で課税する」というルールです。日本の税務当局は、「ペーパーカンパニー(実体がない会社)を使って税逃れをすること」を厳しく監視しており、以下の条件に当てはまると法人の利益が個人の所得に「合算」されるという驚くような展開に至ります。
- 租税負担率の判定: 現地の法人税率が20%未満※の国に法人がある
- 実体性の欠如: その法人に独自の事務所がなく、現地の従業員も存在しない、業務が行われていない
※30%未満の場合もあり
たとえ現地の法人税が安上がりになろうと、理論上は法人内で利益を留保して相続対策が完全にうまくいきそうだとしても、その利益が日本でのあなたの給与や事業所得に加算されるのです。
その結果として日本の所得税・住民税(最大55%)が適用され、法人化した意味が消失するどころかさらなるコストが加算される最悪なケースは知っておいたほうがいいでしょう。
合算課税を回避するためには、その法人が「現地でビジネスが機能していること」を証明しなければなりません。
個人所得への合算課税回避の条件
- 事業基準: 不動産賃貸業がビジネスの目的である
- 実体: 現地に事務所があり従業員が勤務している
- 管理支配基準: 現地で株主総会や取締役会が開かれ、経営判断が現地で行われている
しかしながら開き直って以下を選択することもできます。割り切りがあれば問題はなくなるでしょう。
毎年の所得税については、日本の合算課税を課される前提(あるいは利益を消す前提)で割り切り、狙い通りに『相続時の株式評価減』と『現地の遺産税ブロック』だけを取りに行く。
多くの海外不動産は、減価償却費や借入利息、維持管理費を差し引くと、会計上の利益(所得)はそれほど出ないことも多いです。
このため合算される所得(利益)」がそもそも少なければ、CFC税制で合算課税を食らったとしても、追加で払う税金は限定的です。この見方ができれば問題ありません。
それだけではなく現在投資家が狙っているのは資産防衛・通貨分散、そして評価額を落としての相続です。日本の相続税法においては、非上場株式の評価(純資産価額方式など)に「現地に事務所があるか」というCFC税制のような実体要件は関係ありません。
たとえCFC税制で「海外法人に実体なし」と判定され、毎年の所得が合算課税されていたとしても、相続が発生した瞬間の「株式評価額の37%控除」などのメリットは、法律上そのまま享受できる可能性が高いのです。
物件のローンが終わり、減価償却も進み、多額のキャッシュ(利益)が法人内に溜まり始めた時です。この段階で現地法人に実体がなければ、溜まった利益に対して日本の所得税が直撃します。
そのため多くの投資家は利益が溜まる前に、役員報酬として吐き出したり、次の物件を買って経費を作ったりして「合算されるべき利益(所得)」をゼロに近づけるようにすることが多いです。
手間とコストとリスクを考えれば、デメリットの方が上回るケースがほとんどです。それでもなぜこのスキームが存在し、一部の層に活用されているのかを整理します。
国内不動産には「小規模宅地等の特例(最大80%評価減)」という最強のボーナスがありますが、海外不動産にはそれがありません。事実、国内で不動産を買えるならそちらの方が相続税は圧倒的に安くなります。「節税」が目的なら海外不動産を選ぶこと自体が論理的に矛盾しています。
海外不動産を法人で所有して相続の対策をする真の目的は、本質的に節税ではありません。法人所有にすることで、「現地の不動産が動いた」のではなく「日本の法人の株主が変わっただけ」という形を作り海外での課税を物理的にブロックします。
これは「得をする」ための戦略ではなく、「何もしないと大幅に課税される」という最悪の事態を防ぐための、高い防衛費(法人維持費)を払う選択にすぎません。
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海外不動産の法人所有は、万能な魔法ではありません。日本のCFC税制、現地の法改正、そして円安リスク。これらをすべて計算に入れたとき、本当に「残る」物件は一握りです。
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