イギリス不動産と確定申告|納税期限「9ヶ月と1日」の罠とRICS鑑定による税務防衛

イギリス不動産のにおける確定申告は、日本のそれとはかなり違った点があります。

ここでは最大のリスクである「確定申告の3ヶ月前に、納税期限が来る」という歯がゆいタイムラインのズレの概要を解説するほか、概算納税による利息ペナルティを防ぎつつ、RICS鑑定を武器に建物比率の正当性を税務当局に提出する方法までお示ししています。

イギリスでは申告より先に納税が到来する

会計年度終了から「9ヶ月と1日以内」の納税義務

日本の法人税務では確定申告と同時に納税を行うのが通例ですが、イギリスでは確定申告よりも納税期限が先に到来します。

確定申告より納税が先に到来

  • 納税期限: 会計年度終了から 9ヶ月と1日以内(利益の概算とコスト項目を目星をつけて納税)
  • 申告期限: 会計年度終了から 12ヶ月以内(最終的な確定申告書の仕上げ)

つまり確定申告書で税額を確定する前に、会社経理財務部や税理士が「概算計算」を行い、先んじて納税をしておかなければなりません。

不動産価格の鑑定をRICSに依頼して「減価償却費がいくらなのか?」の確定が遅れれば、納税額の概算にブレが生じ、延滞利息を支払う羽目になります。決算が終わったのちすみやかに、RICS鑑定に基づいた税務上の調整を行ってしまうのが健全な財務ガバナンスの第一関門です。

なお、大企業(Large Companies)および超大企業(Very Large Companies)に適用される予定分割納付については、さらに早い段階からの予定分割納付(Tax Instalment)が義務付けられます。

端的に日本とイギリスとで納税の習慣や制度が異なるにとどまる話で、1度このスケジュールやサイクルを通り過ぎた財務担当者は慣れで乗り越えられます。

確定申告期限は「12ヶ月」の遵守と遅延の代償

申告期限は「12ヶ月」を遵守しなければなりません。申告が遅延することで以下のような代償も発生します。

税務当局での行動履歴簿

HMRC(税務当局)において各企業にコンプライアンス・レコードを付けられている点は知っておくべきです。申告の遅延を繰り返せばハイリスク企業としてレッテルが貼られ、何度もそうなれば税務対象にもなりかねません。

登記局の提出遅延情報は情報開示されている

法人税申告と並行して行う登記局(Companies House)への決算報告の期限は通常9ヶ月以内で、一日でも遅延すればペナルティが発生するようになっています。さらに提出書類の提出遅延の情報は情報開示されています。日本本社のコンプライアンス部門や監査法人はこの点を注視する可能性は高いので、海外子会社の管理能力に不名誉なレッテルを張られないように注意したいものです。

為替変動による決算への波及効果

申告を下手に伸ばしてしまえば、ポンド建ての税額が定まらず日本本社側の連結決算において為替評価・税務の処理が不安定です。現地の数字を固めて不透明なリスクを早めにクリアしておきましょう。

申告を期限の12月まで粘ることは、リスクの放置に等しいかもしれません。9ヶ月目の納税タイミングで登記局への決算報告とHMRCへの申告準備を済ませておくのがベター。この早めのアクションプランで監査法人や本社を納得させる最強の武器に。」

【税務防衛】RICS鑑定書が「減価償却」の否認を防ぐ唯一の証拠

建物比率の「恣意性」を排除し、税務署(HMRC)を黙らせる

イギリス不動産における法人税管理がうまく行ったと言えるのは、建物の「減価償却(Capital Allowances)」をどれだけ適正、かつ最大に計上できるかの1点に集約されます。

イギリス不動産の査定に置いて世界中の税務当局を黙らせるほどの権威性を持つRICS鑑定士は、不動産の国際評価基準(IVS)に基づいて、建物の物理的構造・再調達原価・経年劣化状況・EPC Rating省エネスコアなどのから建物の純粋な価値を算出します。このRICS鑑定書RED BOOKがあれば、税務署からの否認リスクを心配する必要は一切ありません。

鑑定書の格が違うのがRICSが出すRED BOOKです。取得時に数千ポンドを拠出してRICSを利用すれば、会社会計上・日英での税務上のミスに怯える必要はなくなります。

RICSを活用せずイギリス不動産投資において適当な建築比率を決めて計上することは、イギリス税務当局HMRCから「確定申告を軽んじている」と見なされ修正申告と重加算税の対象となりますので注意しておきましょう。

SBA(構造物・建物)とP&M(設備)の峻別実務

RICSを通して建物比率が確定したら、次は仕分けをどのように行うかです。これが実質的に企業のキャッシュフローを最大化させるための会計実務となります。

まずはじめに財務担当者が知っておくべきなのは、イギリスには「日本のような耐用年数」という概念がなく、何のための資産かで償却率が決まるという事実です。

① SBA(Structures and Buildings Allowance)=建物の償却

  • 償却率:年3%(定額法)
  • 対象: 壁・屋根・床など建物の一連の構造体。

SBAは2018年に導入されたまだまだ新しい制度で、それ以前はこの概念すらありませんでした。33年かけて償却するというスピード感は投資効率としては緩やかですが、日本企業の財務部門の実務にもなじみやすいようです。

② P&M(Plant and Machinery Allowance)=設備の償却

  • 償却率:年18% または 6%(定率法)
  • 対象: 給排水設備・電気配線・冷暖房システム・エレベーター・防火設備・キッチンやバスなど
    ※SBA(3%)に比べて、かなり早いスピードで損金算入が可能です。

建物SBAと設備P&Mの償却を一括で処理してしまうと、18%で落とせる設備部分まで3%で処理することになり、機会損失は大きく納税額の過大支払いまで発生しうるでしょう。

RICS鑑定士が出すRED BOOKには「この建物の価値のうち25%はP&M(設備)が占める」といった詳細な資産内訳が明記されています。Plant and Machinery Valuation(設備評価)もセットで行えば、監査法人のチェックに対しても「合理的な見積もり」として、正当性を認められ、かつイギリスの税務当局が認めざるを得なくなります。

【資金還流】日英租税条約をフル活用したタックスコストの最小化

外国税額控除:英国法人税(19〜25%)と日本税制を調整して二重課税回避

イギリス不動産から得られた家賃収入収益には現地で法人税Corporation Tax(19〜25%)が課されます。この金額を日本の本社の法人税においてどのように取り扱うのかが実務の焦点となります。

外国税額控除で二重課税の回避

日英租税条約上、イギリスで納めた法人税額を日本の法人税額から差し引いて二重課税を回避、日本の実効税率(約30%)程度の負担に平準化されます。※ただし日本側の税額控除には限度あり

外国税額控除は決して思ったように効果を発揮する万能はありません。以下英租税条約第10条の配当源泉税0%を組み合わせることで、世界でも類を見ないほど還流コストが最小化される仕組みを活用すべきです。

受取配当等の益金不算入

イギリスに現地法人を設立して日本へ送金する場合、日本の税制上では「外国子会社配当益金不算入制度」が適用されます。

ただしイギリス現地で25%の法人税を支払った後の利益については、日米租税条約第10条で基本源泉税(配当源泉税0%)は免除され、利益を削られることはありません。これがイギリスは還流効率が良いと言われる最大の理由です。

源泉税0%は自動的要ではない・実務上の届出ノウハウ

上述してきました日英租税条約の配当源泉税0%は、イギリス不動産投資の収益を日本へ戻す際の最大の効力を発揮しますが、自動適用されるわけではありません。

ここで日英租税条約第10条を適用して「0%の配当源泉税0%」のメリットを完全に享受するためには以下の実務を要します。


  • 適格性の確認

    日本本社が以下の適格性の要件を満たしているかを確認します。

    • 持分比率: 議決権のある株式の1割以上を所有している(間接所有も可)
    • 保有期間: 配当支払額基準日までの半年間を保有
    • 特典条項(LOB): 逃税目的でない(適格制限条項に抵触がない)

  • 英税務当局(HMRC)への免除申請

    日本本社は日本の税務署で居住者証明を取得、現地の会計士を通じてイギリスの税務署HMRCに提出します。この届出を怠ればHMRCから白い目で見られペナルティも課せられます。


  • 資金還流のタイミング

    配当決議を行う前に、現地のキャッシュポジションと、HMRCへの届出状況が整合しているかを確認します。

    租税条約上の「0%」を適用できる要件がそろって財務部が承認した上で実行するフローを構築しておくことが重要です。


源泉税0%は権利でもあるのですが行使するためには労力を要する手続きがあります。資金還流を急ぐあまり、税務上の不備は財務担当者として避けるべき失態となるでしょう。

CFC税制(合算課税)をクリアするための「管理支配」の証拠化

  • この記事を書いた人

LCFPO

公認会計士事務所での決算業務実務経験を経て、FPとして受けた相談件数は18000名以上。契約の継続率・販売力・商品の品質に関するインターナショナルクオリティアワードを受賞。ほか受賞歴や業界内の取材受注多。現職は資産形成・海外不動産投資案件のご相談を承るオフィスの代表FP、事業家。くわしくは「about」よりどうぞ。