お金のご相談を承っていると米ドルを保有していて大丈夫なのか不安に思う人が増えました。
世界の基軸通貨として米ドルの価値が下がっていることを懸念し、ドルを売った方がいいのか具体的に動く前に判断材料が欲しいと拝察しています。
確かにウクライナ侵攻後の新興国によるアメリカドル離れ・過去最高になったアメリカ債務残高など不安材料が増えていますので、それらが米ドル不安を招いています。
ここではそれらの不安材料を見た後に、「米ドル崩壊があるとしたらかなり先のことになる」といった未来像をお伝えしていきますのでご参考ください。
▼動画版はこちら
アメリカドルの基軸通貨としての地位を失わせているかのように見える諸々って何?
アメリカドルの未来を最も有力に予言している発言:ジムロジャーズ
ジムロジャースによる発言
アメリカ経済はピークに達している。残されているのは一定を保つか衰退の2つ。
コロナ後にアメリカ株は今までにない高値を付けた。それをリードしたハイテク株は実質的なバブル傾向。
今がアメリカ株の売り時と言いたいわけではない。かなりの紆余曲折を経ていずれは中国が世界の覇権を握るだろう。
現在、人民元はオープンにされている通貨ではないので、即基軸通貨になりえることはない。つまりドルに代わるような通貨が存在していないのでまだドルが保有されるだろう。
※
ロジャーズの発言を紐解くがごとく、中国を含む新興国の動きから見て行きましょう。
新興国でのアメリカドル離れの動き
アメリカドル離れを鮮明に印象付けた新興国の動きを以下3つの視点で解説し、最後に「結果的に2024年時点でアメリカドルの”全世界における取引額は減っていない”」といった点を見ていきたいと思います。
- 金融制裁を受けたロシアを見た新興国が「明日は我が身」で打った防衛策
- ロシアでは人民元の取り扱いが激増
- 実質米ドル離れを表明したサウジアラビア
金融制裁を受けたロシアを見た新興国が「明日は我が身」で打った防衛策
「米ドルを保有して大丈夫なのか」といった不安を増幅させているのは、BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカによる新興5ケ国の総称)によるアメリカおよび米ドル離れにあるでしょう。
ココに注目
新興国がいかにしてドル離れしていったのか順を追って整理してみると以下のようになります。
ドル離れが起きた流れ
- ウクライナ侵攻あとアメリカ・ヨーロッパ各国がロシアへの金融制裁を決定
- 国際間送金の網であるSWIFTからロシアを排除する合意
- ロシアが持っている米ドル資産を使用不可にする
- ロシアに課された金融制裁の厳しさに新興国各国が危機感を募らせる
- 新興国が「明日は我が身ではないか?」と考えるようになり防衛策を講じるようになる
- 米ドル1本から、徐々に移行して米ドル離れするようになった
確かにこれらの動きはアグレッシブなアメリカドル離れが起きているかのように見えてもおかしくないように思えます。
これまでのアメリカドルは強力で、1国単独だけでアメリカドルから離れるなどほぼ暴挙と言って良いほどの強さがあり、新興国の動きはある意味一致団結といったインパクトがあったのは確かです。
ロシアでは人民元の取り扱いが激増
ウクライナ侵攻のあと、2023年3月ロシアにおける通貨の取引量は以下のように大きな変化がありました。
ロシアにおける通貨取引量2023年3月
- ロシアルーブル/中国人民元取引量:39% (過去最高は2022年12月37%)
- ロシアルーブル/アメリカドル取引量:34% (2022年2月は83%)
アメリカドル/ロシアルーブルの取引量は過去最高の83%から34%と半分以上激減しています。一方ロシアルーブル/人民元について言えば確かに1年間で増えたのは事実です。
- ロシア中国間の貿易取引が急増したことにより決済通貨として人民元のニーズが上昇
- アメリカドル資産を保有したとしても金融制裁後に凍結される可能性が高くなるという認識が高まってロシアにおける米ドルの需要が低下
- 1と2により人民元口座が急増
- 自国通貨の強化安定を求め、ドルによる決済から二国間決済に移行
ロシアにおけるアメリカドル資産の凍結の可能性が高まり、これが人民元への流出を加速させたと同じと考えられるでしょう。
ココに注意
しかし先ほどのデータは世界の通貨取引シェアからするとかなり小さな額と思われます。以下に見るように「ルーブル/人民元」の取引は項目に上がらないほどの微々たる率であるのも事実。その他の項目に埋もれるほど小さいという意味です。
実質米ドル離れを表明したサウジアラビア
アメリカ以外の国が石油を輸出入する場合でも「その自国通貨からアメリカドルに換金してアメリカドルで石油の決済を行う」という手法を使うのが慣例なのです。
石油決済での手段がアメリカドルであること(ペトロダラー)は「世界の基軸通貨アメリカドルの地位」の一部を担っていたことに相違ないでしょう。
アメリカドル離れを実質的に表明したのがサウジアラビアで、2022年12月中国人民元による石油取引決済に意欲的なコメントをしています。
中国は石油輸入大国で、特にサウジアラビアからの石油輸出の25%は中国が占めており、両国で人民元決済の流れが濃厚になってきました。
しかしながらこれが中国の自国通貨強化の動きの初動ではありません。以下のように中国の人民元決済の動きはかなり活発で「アメリカドル離れを強烈に意識している証拠」と考えられています。
中国での人民元決済の動き
- 2021年9月:対インドネシア 自国通貨決済の枠組みを締結
- 2021年9月:対イラン ペトロ人民元決済構想が報道される
- 2022年6月:ロシアからインドへ石炭が輸出される際に人民元決済をする取り決め
- 2023年9月:ロシアのガスを中国へ輸出する際に人民元を使用する協定
- 2023年12月:習近平中国国家主席が湾岸国協力会議において将来の決済手段を人民元にしたいと発言
過去最高を更新したアメリカ債務残高
アメリカドルを保有していて大丈夫なのか?といった不安を増幅させる要因として、アメリカドルの価値の低下・アメリカ国債の信頼が下がっている点も挙げられます。
コロナのあと世界各国の債務残高は急増しました。アメリカのバイデン政権に至っては財政赤字が積み増し、過去最高の30兆ドル(1ドル156円換算にするとおおよそ4680兆円)に。
これがアメリカ国債への信用を低下させていると考えられているようです。
アメリカドル基軸通貨体制が当分の間びくともしない理由
基軸通貨は、金融・貿易上などさまざまな決済で広く使われ、信頼性・利便性のよさ・汎用性がある通貨を言います。
中国人民元が勢力を増してこようと、新興国がペトロダラーに懐疑的になろうと、当分の間アメリカドルの基軸通貨体制はびくともしないでしょう。
はっきり言える理由について飽くまでファクトベースで以下5つの視点で解説していこうと思います。
アメリカドルの基軸通貨体制がこの先当分の間はゆらがない理由
- 交換手段・決済手段・決済通貨として優れ比類なし
- 価値貯蔵手段としての価値が1973年から一貫してぶれていない
- アメリカドルの取引量は落ちていない
- 中国人民元と比較して機能がどう見ても上
- アメリカ債務残高は大国ゆえ妥当な範囲と言える
交換手段・決済手段・決済通貨として優れ比類なし
基軸通貨はその信頼性・利便性のよさ・汎用性があるがゆえにさまざまな決済で広く使われ、ゆえに高い流動性の性質も認められます。
流動性が低い通貨は、「取引したい時期が限られたり、欲しい量だけ取引できるかどうか取引が成立するかも不透明な性質」をしています。
また、通貨の価値を推し量る指標として実質実効為替相場も参考になります。アメリカドルの実質実効為替レートの上げ下げが、通貨価値そのものの上げ下げを示すからです。
アメリカドルの実質実効為替相場での価値の推移は以下のとおり。
1973年変動相場制となった時点から現在に至るまでアメリカドルの価値に大きなぶれはありません。
価値貯蔵手段としての価値が1973年から一貫してぶれていない
アメリカドルについて国際通貨としての相対的貢献度を図る指標※があります。(※通貨別の保有率と債務残高の減少率を用いるデータ)
比類なき米ドルの国際貢献度
1986~2016年の間のアメリカドルの相対的貢献度は54.4%、世界通貨危機が起きた2008年であっても49.4%を維持しており、いかにドルがほかの通貨を圧倒する存在であることが証明されています。
方や1986~2016年の間の日本円は5~6%程度、ユーロは27%程度の相対的貢献度です。
アメリカドルの取引量は落ちていない
それでは本当にアメリカドルは基軸通貨としての地位を失墜させるほどなのかを2020年と2022年の通貨取引量で検証してみようと思います。
アメリカドルの外国為替市場における通貨別取引シェアは2019年と2022年とで44.2%から全く変わっていません。
2023年国際送金で用いられた通貨は、米ドル42.71、ユーロ31.74、英ポンド6.58、日本円3.51、人民元2.29%
出典:rieti.go.jp
2022年から中国人民元の取引量が3.5%になっているものの、米ドルの取引量シェアからすると、足元にも及ばないといったかんじでしょうか。
また、外国為替市場ペア別取引高シェアにおける、対米ドルのペア取引高シェアは2019年88.3%・2022年は88.5%となっており、特にシェア激減を深刻に問う要素はどこにも見当たりません。
もっと詳しく
中国人民元と比較して機能性がやはり上
アメリカドルが世界の基軸通貨としての地位を問われがちなとき、必ずその代替となりうる通貨として中国人民元が登場します。
それでは果たして中国人民元はアメリカドルの機能に匹敵するかを比べてみましょう。
外国為替管理は外為取引を取り締まるような役割ですから、通貨としての汎用性を失わせるものでもあります。
中国人民元に関しては外国為替取引において著しく融通性を欠き、アメリカドルに関してはロシアなどの一部の国に対して預金封鎖を行っているくらいにとどめ規制がなく汎用性の高さは中国人民元と比べるまでもありません。
アメリカの債務残高は妥当と言える範囲
ココがポイント
過去最高の債務残高になったのは紛れもない事実としても、この額が妥当かどうかで見れば、「アメリカという大国であれば問題ない」と私は考えます。
アメリカの債務残高の妥当性については以下のように考えられます。
以下のように財政支出の額とGDP成長率は強い相関関係にあり、依然として経済成長を遂げるアメリカを支えているのは相応の財政支出にあるといった見方ができるからです。
対GDP債務残高比率
- アメリカ:100%
- 日本:250‐300%
国全体の稼ぎであるGDPに対する債務残高比率が、債務残高が妥当かどうかの検討材料に用いられるのは、基本的に国の借金は国全体の稼ぎによって賄われるものと考えられているためです。
「アメリカの対GDP債務残高比率が100%」が意味しているのは、「アメリカの債務残高=アメリカの1年分のGDP」。
以下の表を見ると、それまで80%以下だった率が2020年に100%に達しています。
ココに注意
確かにアメリカの対GDP比債務残高はコロナ以降100%に跳ね上がっていますが、コロナ以降ほとんどの国が財政支出を行って国家財政状況が悪化・通貨の弱体化を招くような政策を打つしかなく、どんぐりの背比べに等しいです。
世界の基軸通貨の地位を疑われないために、いついかなる状況であっても債務残高をクリーンな状況にしろと言いたい各国の言い分が間違っているとは言いません。
それではポイントとなるアメリカの債務残高がアメリカ国債に与える影響についてみていきましょう。
アメリカ国債を保有しているのは、主に日本・中国・イギリスなどの外国です。
アメリカ国債の価格が下がって利回りが上がるときは、「アメリカの好景気とそれに伴うインフレを抑制する意図で行われる利上げ」を期待してドルも上がる傾向が一般的です。
つまり国債の利回りが上がる時、ドルも上がる傾向にあります。
アメリカ国債の格下げが起こり10年国債の利回りは5%に達したとき、国債とドルの同時安が起こりました。
さらに詳しく
結果的には債務上限交渉で予算が付き、アメリカ国債の格下げリスクは減少するなどしてドル安進行は改善されました。
アメリカ国債の多くを外国が保有しており、アメリカの債務残高が増えてたことに懸念を持つ国が米国債を売却する機会は増えるかもしれません。
これまでアメリカはデフォルトに至ったことがない点と、着々と債務返済が行われてきた点によって米国国債は長い間多くの国で保有されてきました。
しかしながら2024年に来て世界の基軸通貨としての地位を他国に渡すほど、アメリカドルの価値は下がっているのか?と言えば決してそうではありません。
まとめ:アメリカドルに匹敵するほかの通貨はなし
ココに注目
基軸通貨としての地位と、世界の覇権国である地位は、両輪をなしていました。
大航海時代に覇権国となったスペイン・ポルトガル、産業革命で覇権国となったイギリスなどが基軸通貨としての地位も確立、これらの通貨はいずれも持ちが80‐100年程度だったと言われています。
アメリカドルの基軸通貨の歴史は80年を超えていますが、アメリカドルもそろそろ賞味期限に達する、といった単純な話になるでしょうか。
基軸通貨となるためには世界をけん引するほどの圧倒的な経済力が必須です。当然ながらそれは強力な軍事力を含んでいます。
ロジャース氏が言ったように、アメリカに匹敵するような経済大国は今のところ中国くらいしか候補がないので、次なる覇権国候補は中国と考えてよいと思います。
しかし今現在中国がアメリカに匹敵するような強い経済力と軍事力はない、むしろ2024年に至ってガタガタ来ています。
中国経済の3~6割が不動産で占めていると言われています。2023年中国は不動産バブル崩壊により、最大大手ディベロッパーである恒大の瀕死状態は今なお続いており、中国経済に与える影響はいまだ不透明です。
不動産バブルを差し引いたとしても確かに中国の経済成長は著しいですが、だからといってアメリカを凌駕するような革新的な力や汎用性がないのは火を見るより明らかでしょう。
人民元や中国という国自体がオープンにされている訳ではないというのもさることながら、アメリカドルのような安定性・アメリカ経済のような世界をリードするような力はまだ中国にないと判断されているのです。
将来的にアメリカドルから人民元に基軸通貨が移行するとしても、それは今現在の金融市場・国際貿易・世界経済を再構築されたうえで実現されるもの。
システムや制度や取り決めもままならない所で「明日から人民元に切り替わり」とはならないので、世界の基軸通貨がドルから人民元へ移行するのには時間が相応に必要だと考えられます。
ココに注意
アメリカに匹敵するような経済大国が存在せず、基軸通貨を人民元へと移行するようなシステムや環境が整備されていない状態だと、近々にアメリカドルが世界の基軸通貨としての地位を失うようなことにはなりません。
ココがポイント
繰り返しになりますが、今のところどころか、この先当面米ドル以外に以下のような世界の基軸通貨としての役割を果たす通貨は見当たらない中で、結果的に米ドルは保有し続けられるのです。
- 交換手段として優れており比類なし
- 価値貯蔵機能として1973年からぶれがない
- 取引量が全く落ちていない
- 外為法の観点から汎用性が高い
- 覇権国としての地位:盤石で大きなアメリカ経済
上のようなアメリカドルの特殊性により、外国によって米国債が著しく大量に売られるようなことは考えにくいと思います。
結論としては・・・しばらく当面の間はアメリカドルが破綻することはないと見て構わないということになります。
アメリカドルでの運用を検討されている方は、以下もご参考されてみてください。
-
アジアンバンクキャピタルトラストの概要・Asian Bank capital trustの概要
こちらではWEBで口座開設できる海外銀行として知られるアジアンバンクキャピタルトラストの概要についてお伝えしています。 オフショア・海外銀行の口座開設先をお探しの方はご参考ください。 将 ...
続きを見る
-
アメリカドルで海外銀行の口座開設する重要性が増している理由
Contents1 今アメリカドルで海外銀行の口座開設する重要性が増している理由1.1 日本で生きていくうえで、環境や制度面で抗うにも限界がある1.2 資産を防衛するために知っておきたい ...
続きを見る
-
これからの資産防衛の決定版・米ドル建て米国銀行説明会&オンラインセミナー
ここでは円安とこの先に備えたい人のためのお金のセミナーをご案内しています。 また、「アメリカドル建てアメリカの銀行(定期預金年利5~8%)の口座開設を検討する人に向けて説明会」も行っています。 &nb ...
続きを見る
関連記事
-
ペトロダラーシステムの崩壊は先のこと・アメリカが経済大国になるまでとこれから
アメリカを経済大国に伸し上げたペトロダラーシステムが崩壊している、とどこかで見聞きしたかもしれません。 ここではペトロダラーシステムのこれまでとこれからをお伝えしたあと、「果たしてシステム崩壊が起きて ...
続きを見る